1.はじめに
協立総合病院では、将来内科を希望する3年目以降の医師に対して2年間の初期研修終了後、6ヶ月ごとの臓器別ローテートを軸とする中期
研修を行ってきた。その基本的な考え方は、3年目で臓器別内科を固定するのは内科医として不充分で、さらに幅広い経験をつんだ上で臓器別専門を深めるべき
であるという考え方であった。
こうした経験を積極的にいかして、病院で働く内科の総合医として3年間のホスピタリスト養成のプログラムを開発し、内科専門医に分化す
る前の研修を統一するとともに、施設基盤型の専門医として、日本の実情、これからの病院医療の実情にあったホスピタリストを養成してゆく。
2.わたしたちの考えるホスピタリスト
専門臓器別の知識と技能を集めただけでは今日の複雑な病院医療を担う総合医としては不十分であり、チーム医療におけるリーダーシップや
医療安全といった今日の病院医療のシステムを発展させる能力を持つ必要がある。
同時に、米国の入院医療を中心とするスタイルにはこだわらないで、外来や地域医療、救急医療を含めた幅広い能力が日本でのホスピタリス
トには必要と考える。また、振り分け機能や、鑑別診断の困難な症例を中心とするのではなく、各臓器別の頻発症例について、専門医と協力しながら、主要な疾
患の治療に当たることが望ましいと思われる。
地域志向の病院で、外来、救急を行いながら、円滑に入院医療を行う医師が私たちの求めるホスピタリストである。
3.一般目標
協立総合病院の内科で研修する3年目から5年目の後期研修を行なう医師は、ホスピタリストとしての次の能力を身につける。
- 病院の病棟医療における主要な疾患、問題を取り扱う能力を持ち、他職種と協力する姿勢でチーム医療における医師としての役割を果
たす。
- 医療生協の価値、患者の権利章典を理解し、組合員との協同の行事に参加する。
- 仕事に基づいた学習をして、省察に基づく実践家になれるよう、業務のあとでの振り返りを行なう。また自己評価と自己開発の計画を
持ち、学習課題を病院の課題と関連させて考えられるようにする。
- 初期研修で重視されている、面接、身体所見、臨床推論といった基本的臨床能力の維持発展をおこなう。教えることと学ぶことを統合
して、学生、初期研修医の教育に参加する。
- 生物心理社会モデルで疾病を捉え、臓器レベルでの生物医学的疾患に対する理解と、生活と労働、家族、文化、社会との関係での患者
の理解を統合し、良好な患者医師関係をもつ。
- ホスピタリストとして臓器別専門の医療に加わり、検査と治療を経験する。
4.ホスピタリストとしてのコア・コンピテンシー
1.臨床能力
- 急性冠症候群
- 不整脈
- 心不全
- 静脈血栓塞栓症
- 急性腎不全
- 尿路感染症
- 不明熱
- 敗血症
- 峰巣炎
- 肝障害
- アルコール関連問題
- 胆道系感染症
- 消化管出血
- 消化器悪性腫瘍
- 肺炎
- COPD
- 喘息
- 肺結核
- 肺癌
- 脳卒中
- 譫妄
- 認知症
- 糖尿病
- 薬物中毒
- 疼痛管理
- 甲状腺疾患
- 高血圧症
- 高脂血症
- 膠原病
- CKD
2.処置の技術
- 救急処置
- 腰椎穿刺
- 体腔穿刺
- 血管確保、中心静脈確保
- 胸部XP読影
- 心電図読影
- エコーの実施と診断
- CT読影
- 予防接種
3.医療システム
- 高齢者のケア
- 慢性疾患管理
- 緩和ケア
- コミュニケーション
- 医療情報管理
- EBM
- チーム医療
- リーダーシップ
- 入院患者の栄養/NST
- 医療安全とリスク管理
- 感染症予防と抗菌薬耐性
- 患者の権利章典と医療倫理
- プロフェッショナリズム
- 医療の質改善
- 医療保険制度とDPC
- 退院計画
- 社会保障制度と弱者のケア
- 初期研修医教育
- 実践に基づく省察
5.学習方略
- 内容
- 内容の大部分は医療活動である。病棟での診療活動、外来での診療活動を独立して行ない、救急当直業務、特殊検査への参加、初期研
修医、学生教育への参加を行う。
- 方法
- 3年間を通じて、縦割りで行なわれるもの:外来、救急、往診、研修医教育
- 6ヶ月ごとのロテートを軸に行なわれるもの:病棟、特殊検査、特殊治療
①ロテートについて
- 循環、呼吸、消化、腎、神経、救急・総合内科の6部門の中から4つを選択し、さらに2つについては、将来希望する臓器別内科に固
定した研修または独自のロテート(緩和医療、診療所など)も選択可能とする。
- それぞれの部門において経験する疾患、検査、治療についてホスピタリストとしてのミニマムリクワイアメントを基準にこれまでの経
験、各分野でのかかわり方への希望、学習のガイドを参考にして、6ヶ月毎の目標を臓器別専門の指導医と確認する。
- 胃カメラなど一部の特殊検査においては検査を実施していないと技能が低下する点があるため、一度身につけた検査法を希望すればあ
る程度は実施できるよう工夫する。
- 1つの部門で受け入れられる人数を配慮して、ロテートが円滑、合理的に行なわれるようにする。
- ロテート中の指導医は臓器別専門医がまず病棟での指導医となるが、全体にかかわる内容、ホスピタリストとしての学習内容について
はプログラム責任者の内科部長を中心に指導を行う。
②全体にかかわる内容
- 外来・救急における学習課題を、記録をつけておいて振り返る。
- 救急の内容については救急科が指導医となる
- 木曜に月2回の学習会を行い、ホスピタリストにふさわしい内容の学習会をケースベースで行ってゆく。第2週は若手中心、第4週は
プログラム責任者中心におこなう
- 3ヶ月に1回は第4木曜において、SEAを含めた振り返りを行う。
- NST.救急委員会、糖尿病担当者会議、医療安全などの委員会に委員として参加し病院のシステム改善についての経験をつむ
- 内科地方会などで症例の発表を行う。
③部門別方略
① 循環器
- a.学習目標
- 高血圧症、心不全など頻度の多い疾患の病態生理を把握し、検査、治療計画を立て、外来管理と入院の適応が判断できる。
- b.経験すべき疾患
- 高血圧症、心不全、不整脈、冠動脈疾患、ASO,肺塞栓症
- c.経験が望ましい疾患
- 先天性心疾患、心膜炎、心内膜炎、大動脈解離、大動脈瘤、心筋症、弁膜症
- d.習得すべき診断・治療手技
- 聴診、身体診察の評価、心電図の実施と読影、運動負荷心電図、心エコー
- e.経験がのぞましい検査・治療手技
- 心臓カテーテル検査、冠動脈造影、ペースメーカー挿入術、冠血管形成術
- f.臓器別サブスペシャリティーとしての学習
- エコー読影、心電図読影、入院カンファレンス、緊急カテーテル参加
② 呼吸器
- a.学習目標
- 呼吸器疾患の管理、指導ができ、人工呼吸の管理など重症呼吸器疾患の治療ができる
- b.経験すべき疾患
- 呼吸器感染症(肺炎、肺坑酸菌症)、気管支喘息、COPD、気胸、肺癌、急性・慢性呼吸不全
- c.経験が望ましい疾患
- 間質性肺炎、肺線維症、気管支拡張症、塵肺、胸膜炎
- d.習得すべき診断・治療法
- グラム染色、インフルエンザと肺炎球菌の予防接種、酸素療法(院内・在宅)の指導、気管支喘息の治療指導、胸腔穿刺、人工呼吸管
理
- e.経験すべき診断・治療法
- 気管支鏡、右心カテーテル
- f.研修方法
- 気管支鏡:週2回、胸部レントゲン読影会:週1回、病棟カンファレンス
③ 消化器
- a.学習目標
- 1)急性腹症、消化管出血といった消化器急性疾患に外科との連携による治療ができる。
- 2)画像診断に習熟する。
- 3)慢性疾患(肝炎、胃潰瘍)の指導と管理ができる
- 以上の3つの柱を中心に癌の早期発見の視点をもって診療にあたる。
- b.経験すべき疾患
- 消化性潰瘍、胃癌、大腸癌、イレウス、胆石、胆嚢炎、膵炎、肝炎、肝硬変、肝癌、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害
- c.経験が望ましい疾患
- 食道癌、食道潰瘍、胆道癌、膵癌、潰瘍性大腸炎、クローン病、自己免疫性肝炎、管内結石症
- d.経験すべき検査・治療手技
- 胃十二指腸ファイバー、腹部エコー、画像診断(CT、BE,UGI,アンギオ)肝障害の鑑別、デニスチューブ、胆嚢穿刺胆道感染
の治療、癌の化学療法
- e.経験が望ましい検査・治療手技
- S状結腸ファイバー、肝生検、ERCP、胆道ドレナージ、内視鏡的止血術、内視鏡的異物除去、肝性脳症の治療、腹水の治療、SB
チューブの挿入
- f.学習法
- 外科との合同カンファレンス、各種読影会
④ 腎臓内科
- a.学習目標
- 1)腎疾患の診断・治療・管理・教育の基本的能力を習得する。
- 2)血液浄化法、とくにCAPDの基礎知識と手技を学ぶ。
- 3)腎関連検査の評価ができる。
- 4)腎生検の適応を判断し、病理診断の基本を理解する。
- b.経験すべき疾患
- ①糸球体腎炎、膠原病、DM腎症、ネフローゼ症候群、腎盂腎炎、泌尿器関連疾患
- ②慢性腎不全、急性腎不全
- c.習得すべき検査法
- 尿検査、腹部エコー、CT,DIP、レノグラム.腎生検
- d.経験が望ましい治療法
- 腎炎、腎不全に対する薬物療法、血液浄化法(PD、HD)の処方、PD,HD用カテーテルの留置
- e.研修方法
- 腎疾患の主治医として、透析室を指導医とともに回診、CAPD外来、カンファレンス(病棟、透析室、以上週1回、研修医腎カン
ファレンス2週間に1回
⑤ 神経内科
- a.学習目標
- 1)神経学的診察法に習熟して、神経放射線画像診断の基本的読解ができる
- 2)急性期脳血管障害や重症神経疾患の診断治療、全身のマネジメントができる
- 3)リハビリテーションの処方をし、他職種と協力して医療が行える
- 4)社会福祉資源の活用法を知り、慢性期のマネジメントを経験する
- b.経験すべき疾患
- 脳血管障害、パーキンソン氏病、てんかん、認知症、全身疾患に伴う神経症状
- c.経験が望ましい疾患
- ギランバレー症候群、多発硬化症、脊髄小脳変性症、脳腫瘍
- d.経験すべき診断手技
- 腰椎穿刺、MRI・CTの読影、頚部血管エコー
- e.学習の方略
- 神経内科カンファレンス週1回、リハビリテーションカンファレンス週1回、教育回診週1回、外部の研究会への参加
⑥ 救急・総合内科
- a.学習目標
- 自らの学習と研修医、学生教育を統合し、研修医のプリセプタ-を行いながら救急・総合内科領域の治療に精通する。
- b.経験すべき疾患
- 不明熱、薬物中毒、アルコール関連問題、救急疾患
- c.経験が望ましい疾患
- 専門医に指導を受けて治療を行う血液疾患、皮膚疾患など他科、他施設との協力を要する疾患
- d.習得すべき検査・治療法
- 救急外来における各種疾患の鑑別、トリアージ、救急隊との協力
- 家族図、高度なコミュニケーション技能、行動変容、EBM、日常診療の質向上.4分割法による倫理分析
- e.修得が望ましい技術
- 救急外来における処置一般、相手を傷つけない救急外来におけるフィードバック、多忙な専門医へのプレゼンテーション能力
- f.研修方法
- 救急科と総合内科病棟を統一した臨床をおこなう。その中で1年次研修医のプリセプタ-として指導経験を持つ。外来ふりかえり、救
急・当直ふりかえり、1年目へのミニレクチャーと症例呈示を学習機会にする。
- EBMによる学習法を修得する
⑦ 外来を中心とした学習
- a.獲得目標
- 1)内科新患外来において、新患を診療し、診断・治療の方針が立てられる。また、必要な専門医への紹介ができる。
- 2)慢性疾患の管理が外来において行える
- 3)自らの外来の診療の質を向上させるため、学習ニーズの把握ができ、振り返り、助言を受ける活動ができる。
- b.経験すべき疾患
- 高血圧症、高脂血症、糖尿病、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、CKD
- c.経験が望ましい疾患
- うつ病、パニック障害など精神疾患を心療内科と協力して診る経験
- d.経験することが望ましい技能
- 動機付け面接法、患者学習会講演
- e.学習法
- 外来と学習ニーズの日記への記載、定期的振り返り、EBM
⑧ 病院システムへの参加を通じた学習
- a.獲得目標
- コア・コンピテンシーの医療システムの項目について、内容を理解し、チーム医療を行う。
- b.経験すべきかかわり
- 患者会・組合員の会議での講演・講師活動、内部の学習会や研究会に参加して発表する。病院システムへ委員としての参加(NST、
ICT、医療安全、糖尿病、健診、救急委員会)、病棟カンファレンスなど他職種とかかわる。
- c.経験が望ましいかかわり
- 各種学会、研究会、生協、民医連などの会議に参加して、チーム医療、システム改善などホスピタリストとしてふさわしいテーマにつ
いて発表する。
- d.学習法
- 体験の振り返りによって行う。
6.カリキュラムの実施
1.リソース:人的資源:指導医
臓器別ロテート中の病棟医療、検査、治療についての指導医は、各臓器別専門医となる。プログラム責任者は内科部長として、教育的助言を
うける人を任命する。
2.サポートスタッフ
医局秘書がスケジュール管理、学会への書類提出等の援助を行なう。
7.評価
1.学習者に対する評価
- 学習者自身の自己評価、ポートフォリオ
- 内科学会認定
- 技能に対する観察評価
- 学会発表、レポート、研修医教育への参加記録
3ヶ月に一度評価の会議において、SEAを含めて形成的に振り返り、評価を行う。Work Based Assessment とし
て、レポート、観察、他のデータ(受け持ち数、剖検、外来)、記録(サマリー)などをふりかえり・評価の対象とすることも可能であり、学習者が有効にふり
かえりができるように行う。
2.システム、プログラムに対する評価
1年に一度、学習者、指導医、理事会、スタッフからプログラムに対する評価を行ってもらい改善点を明らかにして、改善して行く。
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